開咬(前歯で噛めない)とは?
前歯で咬めない=上下の前歯が当たっていない状態で、主に、上の前歯と下の前歯が上下に離れている場合を指します(前後に離れている場合は、上顎前突、下顎前突に分類)
この状況を幾何学的に分類すると、
- 顎を閉じてゆく過程で、奥歯が先に当たるとそれ以上閉じることができず、結果、前歯で咬めない(奥歯に原因がある)
- 奥歯は正しい高さで噛んでいるのに、上の前歯が高い位置(もしくは下の前歯が低い位置)にあり当たらない(前歯に原因がある)
- 上記1、2、の混在も多いですね
矯正歯科で細かい検査を行うのはどこが原因で開咬の症状が出ているかを調べるためです
原因
奥歯に原因がある場合
なぜ、奥歯が先に当たるのか?
ということなのですが、奥歯が顎の骨から離れた(伸び出た)ところに位置する原因として、鼻詰まりがあり、長いこと口呼吸をしていると、上下の奥歯が離れている時間が長くなり、徐々に奥歯が伸び出てきます。
また、咬む力が弱いことも原因の一つとして挙げられます。四角い顔立ちよりも面長で細い方にその傾向が強いと言われています。
顔には、かみしめるための筋肉がいくつかありますが、その代表が左右のほっぺたにある咬筋です。咬筋は、一方はほほ骨に、もう一方は下あごのコーナーにくっついていて四角い顔立ちの方が力が入れやすい位置にそのコーナーがあります。
逆に、面長の方は力が入れにくく、
日々の機能圧が相対的に弱いため、奥歯が伸び出る傾向となり、極端に伸び出ると前歯が当たらなくなります。
また、左右の耳の穴の前約1センチのところにある顎の関節に腫瘍などがあり、口を閉じられない、また関節リウマチなどによる関節のすり減りでも上手に顎が閉まらず、奥歯が伸び出た位置に長い月日をかけて収束します。
前歯に原因がある場合
上下の前歯がお互いに離れた位置にある場合、まずはその位置異常がどれくらいかを診査します。具体的には、頭蓋骨のレントゲン写真を撮影して、眉間の位置を基準にして上下の前歯の座標を計測して平均値と比較します。
歯が原因の場合、お口の周りの悪い癖(指しゃぶりや爪噛み,唇噛みや口呼吸などが含まれます)が悪影響を与えていることが多いです。大人も子供も基本的な健康のため、また、治療後の噛み合わせの安定のため“はなで息、べろは上あご、くち閉じる”を励行しましょう!
骨が原因の場合、遺伝要因が多いです。その方のご家族ご家系代々続く顔立ちが上下のバランスを決めます。上あごと下あごのアンバランスで上下(垂直方向)の要素が開咬の原因となります。バランスが極端に崩れていると歯を動かすだけでは噛み合わせが取れないため、骨を切って動かす外科的手法を併用した治療計画となります。
弊害
上下の前歯があたらないことで、大きく3つの弊害があります。
口が閉じにくい
奥歯が原因でも前歯が原因でも起こり得ます。
上下の前歯の噛み合わせがとれない
奥歯で噛んだ時に、その噛み締めを10とすると6くらいの力で上下の前歯が当たるといいです。ハンバーガーをかぶりつき、レタスまで噛み切れる噛み合わせを目指しますが、開咬の場合、あごをどう動かしても、麺類を噛み切ることができません。
審美障害
開咬の方の前歯は凸凹が少ないことが多いのですが、正面から歯が見える様に笑った時、上下の前歯が当たってないと、審美障害を訴える方がいらっしゃいます。
治療
当院では、外科的手法を併用した治療はしておりませんので、歯を抜く方法と歯を抜かない方法に分けてご説明します。
開咬の場合、前歯が頭蓋骨に対して出ている(出っ歯)と歯を抜く方法を選ぶことができます。”できます。”と表現したのは、歯を抜く治療を推奨しているわけではありません。前に傾いている歯を垂直に起こすように後ろにさげると、上下の前歯の被さりが深くなる方向に同時に動きますので、治療結果を出すのに有利なのです。
それと反対に、前歯が頭蓋骨に対して出ていない場合は、前歯を後ろにさげるように起こす動きを取れないため、上の前歯は下に、下の前歯は上に動かすことで前歯の被さりを改善する方向性しか取れません。これに上述のような奥歯を骨の中に引っ込ませる動きを併用しながら、前歯が上下的に離れている状況を改善していくため、難易度は上がります。これに加えて、上下の前歯に凸凹がや出っ歯を併発しているとさらに難症例となります。
また、開咬治療の難しさは、治療が終わった後の後戻りの管理のしにくさもあります。歯列(歯並び)を固定することは比較的簡単なのですが、開咬治療のように、上下の問題を改善する動き(今回ご説明した前歯を伸び出させたり、奥歯を骨の中に引っ込めたり)を固定することは治療後に使う後戻り防止装置では制御しにくいからです。治療を終了するまでに、はなで息、べろは上あご、くち閉じる、習慣をマスターすることは必須となります。
いずれの場合でも、上下の歯列の表が裏に針金のような装置がつきます。
症例紹介
奥歯しか当たっていない開咬が主訴でした。奥歯の関係が良好でしたので親知らず以外は非抜歯方針を選択しました。ベロの癖がなかなか治らず、治療中も後戻りを繰り返し、ベロだけでなく鼻呼吸の促進と口呼吸の是正を行いながら、上顎前歯部のエナメルスライスを追加しました。要した治療期間は39か月(予定期間越え)でした。
主訴 | 奥歯しか当たっていない |
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診断名あるいは主な症状 | 開咬 |
年齢 | 20代 |
治療に用いた装置 | 舌側矯正装置 |
抜歯部位 | 非抜歯 |
治療期間 | 39か月 |
治療費概算 |
[基本治療費] ¥660,000- [裏側ブラケット加算] ¥495,000- |
リスク・副作用 | 治療中の痛み、治療後の後戻り、歯根吸収、歯肉退縮、顎関節症 |
奥歯しか当たっていない開咬が主訴でした。上の前歯の位置の改善のために上左右の第一小臼歯を合計2本抜歯する方針を選択し、また顎関節も不安定でしたので、治療中は症状が出ても対処するお話を事前に行いました。また開咬合の原因の一つにベロの癖があり治療期間を通して念仏にように指導しました。要した治療期間は17か月(予定通り)でした。
主訴 | 奥歯しか当たっていない |
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診断名あるいは主な症状 | 開咬 |
年齢 | 高校生 |
治療に用いた装置 | 表側矯正装置 |
抜歯部位 | 左右の第一小臼歯を合計2本抜歯 |
治療期間 | 17か月 |
治療費概算 | [基本治療費] ¥825,000- |
リスク・副作用 | 治療中の痛み、治療後の後戻り、歯根吸収、歯肉退縮、顎関節症 |