下顎前突(受け口)とは?
下あごが上のあごに対して前に出ている骨格を示します。歯は顎の骨にささっていますので、下あごが前にあると下の前歯も出ていることが多いです。それに伴い、通常なら上の前歯が下の前歯より前に噛んでいる“前歯のかぶさり”が反対(下の前歯が上より前に噛んでいる)になっていること(反対咬合と呼びます)が多々見受けられます。
矯正歯科で、その噛み合わせを分類する場合、この下顎前突は大きく5つに分類されます。
- 下の顎が出ていて、下前歯が出ている方
- 下の顎が出ているというより、上のあごが劣成長で後退した骨格の方(相対的に下のあごが出ている症状)
- 上下の顎の骨に前後的な異常がないのに下の前歯が前に出ている方、もしくは、上の前歯が後ろに倒れている方
- 上記原因が混在している方
*矯正歯科で細かい検査を行うのは、どこが原因で反対咬合の症状が出ているかを調べるためです。 - 混在の有無とは別に、下あごは左右両耳の前にある関節でぶら下がっていて動きますので、顎の位置を前に動かして仮の噛み合わせをとっている方
原因
骨が原因の場合、遺伝要因が多いです。その方のご家族ご家系代々続く顔立ちが上下のバランスを決めます。また、人の顎の成長は、上あごが先にピークに達し、その成長が収束しかけている時でも下あごの成長は続きますので、小学生で骨格性の反対咬合は成長と共に悪化します。その傾向がある方は、矯正歯科治療のタイミングが違いますのでカウンセリングが必要です。上下のあごの前後的なバランスが極端に崩れていると歯を動かすだけでは噛み合わせが取れないため、骨を切って動かす外科的手法を併用した治療計画となります。また、前歯が反対に噛んでいても、下あごの位置を後ろに動かして、奥歯はあたらずとも上下の前歯でカチカチと当てることができる方(診査に技術を要します)は機能性の反対咬合といい、治療の難易度が下がることがあります。
歯が原因の場合、お口の周りの悪い癖(指しゃぶりや爪噛み,唇噛みや口呼吸などが含まれます)が悪影響を与えていることが多いです。大人も子供も基本的な健康のため、また、治療後の噛み合わせの安定のため“はなで息、べろは上あご、くち閉じる”を励行しましょう!
弊害
下の前歯が上の前歯より前(反対に)噛んでいることで、大きく3つの弊害があります。
口が閉じにくい
上顎前突と場合と同じく、下の前歯が出過ぎていると口が閉じにくくなります。また、下あごが大きい方は、ベロも大きいことがよく見られます。口呼吸を併発すると、大きいべろが下の歯列を横に前に押し、前歯の反対を助長するばかりでなく、歯列を左右に拡大して、通常は上の奥歯よりも内側ある下の奥歯が外側に位置する奥歯の反対咬合を惹起します。
上下の前歯の噛み合わせがとれない
奥歯で噛んだ時に、その噛み締めを10とすると6くらいの力で上下の前歯が当たるのが良いです。当たりかたとしては上の歯が下の歯の前にある方が、顎を前後左右に動かした時に上の歯の裏側を擦るようにうごかせますので顎の関節への負担も少なくなります。
真横からお顔を見たとき、鼻から顎の先端のシルエットが反対咬合特有のいわゆる”しゃくれた”ラインになる
通常は上の前歯の位置が唇のラインに影響しますが、前にある下の前歯が影響力を持つためです。
治療
当院では外科的手法を併用した治療はしておりませんので、歯を抜く方法と歯を抜かない方法に分けてご説明します。同じ症例で同じ治療結果を得る上で二つの方法があると言う意味ではありません。同じ結果なら歯を抜かない方法がいいに決まっているからです。なんとか歯を抜かずに治療ができないものかな?と考え、患者さまが求める結果によっては歯を抜く方法(場合によっては外科的手法で治療が可能な 医療機関へご紹介)を選択します。
Method.01歯を抜く方針を選ぶ際にはその部位と本数を決めるために幾つかの診断基準があります。
奥歯の噛み合わせの状態
反対咬合の方は、奥歯の関係もここで噛んで欲しいところより、上の奥歯が下に対して後ろで噛んでいます。この状態が強いと難しい治療となります。
前歯が反対に噛んでいる度合い(前後と上下の二つの方向について評価します)
前後的な評価として、下の前歯が上の前歯よりどれくらい前で噛んでいるか?ということです。下の前歯は上の前歯と違い、支える骨が細く後ろに下げることができる距離がより限られていますので、この距離が3ミリを超えてくると上記外科的手法の併用の検討が必要となってきます。上下の要素としては上の前歯が見えないくらい噛み合わせが深い場合と、逆に上下の前歯の重なりがなく、時には上下の前歯が距離をもって対峙する状態までと様々です。上下の前歯が3ミリ以上離れていると非常に難易度が高い治療となります。前歯をさげたい距離が長くなり、前歯が出ているほど難しい治療となります。
凸凹の具合
凸凹が強いと歯を抜いてできた隙間が前歯をさげる事以外に消費され、より難しい治療となります。逆に、歯と歯の間に隙間が多い空隙歯列の場合、歯を抜く可能性が下がるということになります。
Method.02歯を抜かない方針をえらぶ場合は、症状(凸凹や前歯の反対具合)が少ないことが特徴となります。
奥歯の噛み合わせが比較的良く、上記、機能障害や審美障害が少ない場合は、非抜歯治療のチャンスとなります。抜かずに前歯をさげるスペースを確保するために、下の奥歯を後ろに動かし(下の親知らずは抜歯となります)、結果的には歯列全体をさげる変化を狙います。
治療中は患者様自身でつけ外しながら生活していただく”ゴムかけ”のご協力がより必要となります。また、すでに歯を抜いて治療された方の後戻りの再治療(抜歯方針を選べない)や抜歯だけでは前歯が目的のところまで下がらない場合もこの奥歯を後ろに動かす手法を応用します。いずれの場合でも、上下の歯列の表が裏に針金のような装置がつきます。
症例紹介
受け口傾向の骨格をお持ちで、反対咬合傾向の咬み合わせが主訴でした。右下の小臼歯は抜歯対象でしたが、抜歯回避をトライした症例です。回避に必須なゴム掛けがうまくいかず、一時は症状が悪化しましたが、なんとか終了に至った叱咤激励症例です。要した治療期間は40か月(予定期間越え)でした。
主訴 | 咬み合わせ |
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診断名あるいは主な症状 | 下顎前突 |
年齢 | 20代 |
治療に用いた装置 | 舌側矯正装置 |
抜歯部位 | 非抜歯 |
治療期間 | 40か月 |
治療費概算 |
[基本治療費] ¥825,000- [裏側ブラケット加算] ¥495,000- |
リスク・副作用 | 治療中の痛み、治療後の後戻り、歯根吸収、歯肉退縮、顎関節症 |
受け口傾向の骨格をお持ちで、反対咬合傾向の咬み合わせと歯並びが主訴でした。原因の一つであるベロの癖を正しながらの治療を小臼歯非抜歯の方針で行いました。奥歯の咬み合わせの改善のため下の奥歯を1本ずつ遠心移動し、並びはもちろん咬合改善に至っています。要した治療期間は30か月(おおむね予定期間)でした。
主訴 | 反対咬合傾向の咬み合わせと歯並び |
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診断名あるいは主な症状 | 下顎前突 |
年齢 | 高校生 |
治療に用いた装置 | 舌側矯正装置 |
抜歯部位 | 非抜歯 |
治療期間 | 30か月 |
治療費概算 |
[基本治療費] ¥825,000- [裏側ブラケット加算] ¥495,000- |
リスク・副作用 | 治療中の痛み、治療後の後戻り、歯根吸収、歯肉退縮、顎関節症 |